インクルーシブな社会を中野から(第1回定例会一般質問から①)

2024年2月16日、中野区議会第1回定例会で一般質問に立ちました。以下、質問と区の答弁です。

1、インクルーシブな社会を中野から

(1)「人権モデル」に基づいたインクルーシブな環境づくりの推進について

 「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」、この合言葉の下、世界中の障害のある人たちが参加してくつられた障害者権利条約。障害のある人の人権、自由、尊厳の尊重を定めています。2006年に国連で採択され、日本は2014年に同条約を批准しました。2022年、日本がどれだけ障害者権利条約の内容を守れているのか、国連による初めての対面審査が行われ、同年9月に、障害者権利委員会から日本政府に対し、通知表ともいえる総括所見・改善勧告が出されました。総括所見は、脱施設化に向けた地域移行の推進、優性思想に基づく考え方による津久井やまゆり園事件の見直し、障害のある子がインクルーシブ教育を受ける権利を求めるなど、大変高い目標を示した内容となっています。

 私は、この総括所見に大きな衝撃を受けました。多様性が重要視される社会にあって、人を分類し、それぞれの場所をつくること、選択肢を増やすことが権利保障であるという考え方に大きな波紋を起こす一石が投じられたと感じています。今ある場所がどうして誰もがいられる場所になっていないのかを改めて考える機会になりました。多様性を尊重し合いながら、誰もが安心して暮らせるインクルーシブな社会を中野から実現するために質問いたします。

質問 初めに、国連障害者権利委員会の総括所見・改善勧告を区はどう受け止めたのか伺います。
区長 2022年9月、障害者権利条約に基づき国連障害者権利委員会から示された総括所見の内容は、社会全体に対する提言から障害者の地域社会における自立した生活の推進など多岐にわたるものでありまして、我が国の障害福祉の発展に資する内容を数多く含むものと認識をしているところであります。国はこれを受け、内容を十分に検討していくとしておりまして、区としてもその動向を注視しながら、どのような対応が可能かを検討してまいります。

 障害に対する考え方として、障害を個人の問題とする医学モデル、社会の問題とする社会モデルがあり、当区でも社会モデルの考え方に立って様々な取組が進められています。総括所見には、医学モデルでも社会モデルでもない、人権モデルという言葉が登場します。「人として生まれてきたことに人権の根拠を置き、障壁の解消だけでなく総合的な人権保障の基礎となる」というものです。つまり、社会モデルを補強する考え方と言い換えることができます。

 当区では現在、障害者計画、障害福祉計画、障害児福祉計画の改定が行われており、現在、案が示されています。昨年、中野区障害者自立支援協議会がこれら計画の作成に対し、「重要なのは、基本的な考え方を人権モデルに基づいたインクルーシブな環境づくりにシフトしていくことであり、支援の柱は量から質へ変化が求められている」と意見を公表しています。

質問 現在示されている中野区障害者計画案には、初めて人権モデルの文言が記載されました。インクルーシブな中野の実現に向けて質的な変化を期待するところです。人権モデルを区はどう捉え、施策にどのように反映させていくのか伺います。
区長 中野区障害者計画(案)において、人は誰もが生まれながらにして尊厳を有するとする人権モデル、この考え方に踏まえ、障害のある人が自らの決定に基づき社会活動に参加し、自己実現を図ることができるよう支援することを基本理念として掲げております。

 また、この理念を実現するため、障害者の権利擁護、地域生活の継続の支援、入所施設等からの地域移行と定着支援、障害者の就労支援、障害児支援の提供体制の整備に係る施策について基本的な方向性を定めているところであります。

 ここまで、人権モデルについての区の捉え方を伺ってきました。インクルーシブ社会の実現には、障害に対する考え方を転換することが重要だと考えるからです。インクルーシブは、包摂的・包括的と訳されます。では、インクルーシブな社会とはどんな社会なのか。そのイメージは一様とは言えません。私は、障害のある人だけでなく、多様な人々が交わる機会を保障する社会、そして今いる場所、今ある施設が、誰かを排除することなく、それを望む誰もが当たり前に一緒にいられる、そんな社会をイメージしています。

質問 区が描くインクルーシブ社会とはどんな社会ですか。
区長 インクルーシブ社会とは、障害の有無に左右されることなく、適切な支援を受けながら地域の中で育ち、学び、働き、楽しみ、暮らすことができる社会でありまして、障害のある人とない人が、学校、職場、地域の中で共に暮らし支え合う共生社会であると考えております。中野区障害者計画では、この共生社会の実現を目標に掲げ、様々な施策に取り組むこととしております。

 この項の最後に、インクルーシブ教育について伺います。

 総括所見の中でも、日本の教育に関しては重要視されており、分離した上でその子に合った対応をする教育の根本的な捉え直しを求め、特別支援教育の中止を勧告しています。そんなことが可能なのかと驚きましたが、分離を前提としない教育を実践している学校、取り組もうとしている自治体があることを知りました。

 大阪府豊中市の小学校では50年前からインクルーシブ教育が行われていて、様々な障害を持った児童が通常学級で授業を受けています。また、国立市では、2022年6月に策定した教育大綱にフルインクルーシブ教育という言葉が記載されました。同年12月からは国立市のフルインクルーシブ教育を考える会が開催され、市民も一緒にインクルーシブ教育に関する対話が進められています。具体的な取組としては、小・中学校に入学する新1年生の保護者に対し、障害の有無にかかわらず全員に地域の学校への就学通知を送付することが検討されていると、先日報道がありました。

 文部科学省はインクルーシブ教育を推進するため、特別支援学校と小中高等学校のいずれかを、同じ敷地内や近隣に設置して一体的に運営するモデル事業を24年度にも開始したいとしています。文部科学省のいうインクルーシブ教育は、交流・共同学習の機会は増えるかもしれませんが、これまでの分離を前提とした教育の域を出ていないように見えます。

質問 共に学ぶとはどういうことなのか。中野区で当事者や区民の方々との対話を重ねながら、全ての子どもが安心して学べるインクルーシブ教育を推進していただきたいと考えます。教育委員会として、インクルーシブ教育をどのように捉え、どう推進していくのか伺います。
教育長 インクルーシブ教育の理念は、障害の有無に関わらず一緒に学ぶことであると言われております。一方、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために特別支援教育も必要不可欠であるとも言われております。現在、中野区のインクルーシブ教育の目指すところは、障害の有無にかかわらず可能な限り一緒に学ぶことを考えております。子どもが学校で充実した時間を過ごし、一人ひとりに合った教育を受けられる仕組みを整えていくことが重要だと思っております。インクルーシブ教育はまだまだシステムが確立されておらず、課題も多いと考えているところでございます。

 先述の豊中市のある教師の方は、「障害のない人たちを中心につくられてきた教育のまま、ただ教室で一緒にいるだけではインクルーシブ教育ではない。障害のある人がいることを前提に、通常の教育そのものをアップデートしていかなければ、インクルーシブ教育にはなれない」とおっしゃっています。中野区の教育が、全ての子どもが安心して学べる環境になることを願いまして、次の項目に移ります。

(2)改正障害者差別解消法について

 障害を理由とした差別をなくすことを目的に2013年に制定された障害者差別解消法では、障害のある人への不当な差別的取扱い、合理的配慮の不提供を差別としています。4月1日から改正障害者差別解消法が施行となり、これまで努力義務だった民間事業者にも合理的配慮の提供が義務付けられます。

質問 初めに、合理的配慮の提供が義務付けられる民間事業者の対象について伺います。
区長 国から事業者に該当するものの例として、株式会社、社団法人、NPO、医療機関、教育機関、個人事業主、ボランティア活動を行うグループ等が提示されているところでございます。

 合理的配慮の提供の義務化に伴い、民間事業者に加え、障害当事者の方からの相談や問合せにも応じられる体制の強化が必要だと考えます。

質問 そのためには、障害者の方がふだんあまり訪れることがないと思われるような窓口や部署も含め、あらゆる窓口、部署において対応できるよう、法改正を機に、改めて職員の方への周知、啓発が必要だと考えます。区の見解を伺います。
区長 区では、障害者差別解消、理解啓発事業として、障害者の差別解消の研修に実績を有する民間事業者に委託をし、管理職昇任者及び採用2年目の職員を対象とした職層研修を実施しております。また、新規採用職員向けの研修の中でも合理的配慮について理解啓発を行っておりまして、次年度も継続することを予定しております。さらに、区の障害者への対応事項をまとめた障害者対応基本マニュアルの改訂等を行い、職員周知を図るなど引き続き啓発に努めてまいります。

 明石市では、合理的配慮の提供を支援するため、点字メニューの作成、筆談ボードの購入、お店の出入口に簡易スロープを設置するための公的助成を行い、合理的配慮の提供を推進しています。解説動画をホームページで公開している自治体もあります。

質問 当区においてはどのように合理的配慮の提供を推進していくのか伺います。
区長 区では区内民間事業者及び区民向けに障害者差別解消に向けた研修を実施するほか、合理的配慮の提供の促進に向けた区内民間事業者への理解啓発として、区が事務局を務める中野区障害者自立支援協議会、障害者差別解消部会と区内バス会社との対面による意見交換を実現させるなど、意識の醸成に努めているところであります。また、ポスターやのぼり旗等を活用した周知のほか、区ホームページでも周知等を行っており、引き続き啓発に努めてまいります。

 合理的配慮提供の義務化に向けて、区はこれまで民間事業者に対し、パンフレットやホームページ、講演会の開催などで周知、啓発を行っておられますが、対象が幅広く、また量的にも多いことから、法施行後もさらなる周知、啓発を行っていただくことを要望します。

(3)子どもの声を生かしたまちづくりについて

 子どもの権利実現に向けた動きはここ数年活発になっており、2021年には東京都こども基本条例が、翌2022年6月にはこども基本法が制定されました。当区でも2022年3月に中野区子どもの権利に関する条例を制定し、子ども施策が進められています。

 こども家庭庁は2023年12月、「こどもまんなか社会」を実現するため、子ども施策に関する基本的な方針や重要事項を定めたこども大綱を策定しました。大綱では、市区町村の子ども施策についての計画策定は努力義務とされており、これを受けて各自治体において子ども計画の策定に向けた検討が動き出しています。当区では大綱に先駆け、2023年3月に中野区子ども総合計画を策定し、子どもと子育て家庭への支援を推進しており、このことを高く評価しています。

 中野区子どもの権利に関する条例、中野区子ども総合計画では、子どもをまちづくりのパートナーと位置付け、子どもの意見の表明・参加の促進が掲げられています。子どもの頃から自分の意見を聞いてくれる大人がいる、自分の意見が尊重される、自分の意見がどう反映されたのか、反映されなかったのかを説明してくれる、そんな経験をしながら育っていくことは、まさに自分もまちづくりを担うパートナーの一人だと実感できる大きな要素だと考えます。中野に暮らす全ての子どもたちがそんな実感を持てるよう、子どもの声を生かしたまちづくりについて質問します。

 中野区子ども総合計画には、「子どもが意見表明しやすい環境を整え、日常的に意見を表明したり、主体的に参加するための仕組みづくりを行います。」とあります。ここにある「日常的に意見を表明したり」の部分が、子どもの権利を具現化する上でとても大切だと考えます。

質問 子どもたちがふだん発する何気ない言葉や振る舞いから子どもの声を受け止めるには、子どもたちがいつもいる場所である児童館やキッズ・プラザ、公園、プレーパークなど、またいつも手にするタブレットなど、日常の延長線上で子どもたちが安心して声を上げられる環境づくりが必要だと考えます。区の見解を伺います。
区長 これまでワークショップ、ヒアリング、アンケート調査などによって子どもの意見を聞いてきたところでありますが、子どもの身近な場所や場面において、日常の延長線上で子どもの声を聞くことも重要であると認識をしております。子どもがいつでも安心して意見を表明できるよう、その仕組みづくりや機会の確保に向けて取り組んでまいります。

 子どもの意見というとイメージするのは、自分の考えや感じていることを言葉ではっきりと表現することではないでしょうか。子どもの権利条約第12条意見表明権では、原文は「opinions」ではなく「views」となっています。見えるもの、風景、眺めというものです。言葉でうまく伝えられる子どももいれば、言葉にするのが苦手な子どももいます。また、言葉による表現力がまだついていない子ども、日本語を母語としない外国ルーツの子どももいます。子どもの年齢や特性を大人の側が意識して、子どもたちが自分の環境をどう見ているのか、どう感じているのかを受け止める、理解することが大切だと思います。

質問 子どもの意見表明、参加に当たっては「opinions」とともに「views」にも目を向け、耳を傾けていただきたいと考えます。区の見解を伺います。
区長 中野区子どもの権利に関する条例において、子どもの意見は、発言だけにとどまらず、考えや思いを含むものとして定義をしているところであります。子どもの年齢や発達段階、特性を踏まえて意見を聞くことが重要であると考えておりまして、その手法についても工夫してまいります。

 子どもたちがいつでも安心して声を出せる、自分の意見が言えるためには、子どもの声を聴ける大人が周りにいることが必要です。

質問 国は、子ども・若者の社会参加、意見反映を推進するため、地方公共団体にファシリテーター派遣、育成の支援をする方向を示しています。子どもたちがいつでも声を上げられる環境をつくるために、こうした支援などを活用し、子どもの声を聴ける大人を増やしてはいかがでしょうか。
区長 子どもが意見を表明しやすい環境をつくる上で、子どもの意見表明、参加を支援する大人の存在は重要であると認識をしております。全ての子どもが安心して意見を表明し、積極的に参加できるよう、国の支援制度も含めファシリテーターなどの専門人材の利活用を進めるとともに、大人への普及啓発や理解促進を進めてまいりたいと考えております。

 子どもの声を聴くに当たっては、どれだけ聴けたかだけでなく、誰の声を聴けていないかもしっかりと把握し、子どもの声を政策に反映させていただくことを要望しまして、次の質問に移ります。

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