持続可能性な介護保険制度のために(第2回定例会一般質問②)

2024年6月14日、中野区議会第2回定例会で一般質問に立ちました。

1 水害対策について
(1)グリーンインフラを取り入れた流域治水について
(2)区民との取り組みの推進について
(3)その他

2 介護保険の持続可能性について
 (1)訪問介護について
 (2)地域支援事業について
 (3)その他(ケアラーズカフェについて)

3 放課後等デイサービスについて

以下、質問と区の答弁です。

訪問介護について

 4月からの介護報酬の改定率はプラスではあるものの、訪問介護においてはマイナスとなりました。住み慣れた自宅で暮らし続けたいという願いを支えるサービスの訪問介護ですが、人材不足は深刻で、ヘルパーの有効求人倍率は15倍を超え、全産業平均との給与格差も開いています。厚生労働省の調査では、訪問介護事業者の4割弱が赤字経営であることも明らかになっており、2023年の訪問介護事業所の倒産は67件と過去最多を更新しました。

 こうした中での訪問介護報酬の引下げに対しては、ヘルパーの離職、人手不足を悪化させ、訪問介護事業から撤退する事業者が増加するのではないかとの報道もあります。区内の事業者の方からも、小規模な事業者は潰れてもいいと思っているのではないかなど、厳しいご意見をお聞きしています。団塊の世代が75歳以上になる2025年が来年に迫り、介護ニーズは増えていくのに、このままでは制度はあってもサービスなしになることも懸念されます。

質問 この項の初めに、在宅介護を支える訪問介護の報酬引下げに対する保険者としての区の認識を伺います。

答弁 今回の報酬改定においては、介護職員の処遇改善に係る加算が一本化され、加算率の引上げが図られております。また、訪問介護サービスについては基本報酬が下がった一方で、処遇改善加算については高い加算率が設定をされております。新たな処遇改善加算により、介護職員の処遇改善が図られ、人材確保や事業所の運営にも資するものと認識しております。
(区の答弁には全く納得がいきません。そもそも基本報酬引き下げの根拠となったデータは大規模事業所が多かったとの指摘があり、小規模事業の実態を反映したものとは言えません。)

 そもそも、国は、施設から在宅へを推進してきました。今回の基本報酬の引下げはこの方針に逆行する政策です。国は、基本報酬は下げるが処遇改善加算を手厚くするとしています。しかし、小規模事業所では加算要件を満たすのが難しく、加算ありきの介護報酬の設定は、賃金規定の見直しや配分方法の変更など、事業者の事務負担を生じさせます。

質問 基本報酬引下げの影響を軽減するためにも、処遇改善加算を取得しやすくするための訪問介護事業者への支援策について伺います。

答弁 新たな処遇改善加算では、加算の一本化、申請様式の簡素化、運用の柔軟化が図られており、国、都で動画作成、都による無料電話相談、訪問アドバイスなども実施されております。区では、ホームページや区内介護サービス事業所専用サイト等による周知や説明、情報提供を行っているほか、区の指定事業所に対し、今後、申請状況に応じて個別に状況把握、情報提供を行ってまいります。   

 訪問介護においては、ヘルパーの高齢化も課題です。介護労働安定センターの介護労働実態調査によると、2022年度の介護労働者の平均年齢は50歳で、中でも訪問介護員は54.7歳となっています。2023年に区内の介護事業者を対象に実施された介護人材実態調査の集計結果では、訪問介護を提供している職員を年齢別に見ると、身体介護では50歳代が最も多く、次いで60歳代、40歳代となっています。生活援助においては70歳以上が最も多く、次いで50歳代、60歳代となっており、ヘルパーの高齢化は当区においても例外ではありません。

 また、ケアマネジャー不足も深刻です。厚生労働省のシミュレーションでは、2040年までに約8万3,000人の上積みが必要という結果が公表されています。

質問 介護人材の不足が深刻な中で、区独自の施策の検討も視野に入れた人材確保策が必要だと考えます。区の見解を伺います。

答弁 人材の育成、定着や確保を支援するため、介護サービス事業所の職員を対象とした研修や資格取得の補助、借り上げ住宅の補助などを行っております。また、介護人材の裾野を広げ、事業所とマッチングを行うため、介護に関する入門的研修及び区内事業所の就職相談会を実施しております。今後、国や都との役割分担も踏まえながら、区としての支援策を検討してまいります。   

3月に策定された第9期介護保険事業計画においては、サービス利用料2割負担の拡大、ケアプランの有料化、要介護1、2の地域支援事業への移行、福祉用具の買取りなど、次期改正に持ち越されたものがあります。私は、第10期の事業計画は、改正の内容によっては介護保険を大きく後退させるものになるのではないかと危惧しています。

質問 介護保険事業計画改定に当たっては、これまで介護保険サービス意向調査、介護人材実態調査が実施されています。しかし、これまでと同じ調査では、人材不足など現状の課題、持ち越された制度改正に対する事業者の実態を把握するには十分ではありません。第10期介護保険事業計画の改定に向けて、これまでの調査では把握できない、より詳細な介護事業所の実態を把握する必要があると考えます。区の見解を伺います。

答弁 介護保険事業計画の策定に向けた各種調査は、介護需要、サービス量の見込み、保険料水準等の推計のため、また、国の制度改正等に反映されるため、国から示される指針等も踏まえて実施をしております。各種調査による実態把握とともに、健康福祉審議会や意見交換など様々な機会を通じて事業所の状況の把握を行ってまいります。   

地域支援事業について

 市区町村が実施する地域支援事業は2005年の制度改正によって創設され、給付費の抑制を図る観点から介護予防事業が導入されました。その後、2011年、2014年の制度改正で、軽度者の介護予防・日常生活支援総合事業、在宅医療・介護連携事業、認知症総合支援事業など、事業が拡大されました。
地域支援事業は、地域包括ケアシステムを推進するために設計されています。地域包括ケアシステムとは、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる地域の包括的な支援・サービス提供体制のことで、国は2025年の構築を目途にしています。その2025年が来年に迫っています。

質問 まず、地域包括ケアシステムの要素である当区の地域支援事業の現在の到達点と課題について伺います。

答弁 地域支援事業は、住み慣れた地域で自立した生活を継続することを目標に、高齢者会館における一般介護予防事業など、多くの高齢者が利用し、高齢期の生きがい、健康づくりを支えてきたところでございます。一方、健康への関心が薄かったり、虚弱であるためにサービス利用に結びつかない人もいることから、事業やアプローチ方法の見直しを行っていく考えでございます。   

地域支援事業は、地域包括ケアシステムの構築に向けて、地域づくりの役割も担っています。地域づくりの一つに、通いの場の活用があると考えます。地域の通いの場を通じて社会参加が促され、顔なじみの関係が生まれることで、見守りのネットワークになることもあるのではないでしょうか。

質問 中野区は、あなたの近くの通いの場マップを作成し、フォーマル、インフォーマルな居場所や介護予防講座などを可視化しています。地域支援事業の対象者である要支援認定者の中には、サービスを利用していない人が要支援1で約4割、要支援2で2割弱います。要支援認定を受けながらサービスを利用していない方々へのフォローアップとして、こうした地域資源につなぐコーディネートを推進してはいかがでしょうか。

答弁 要支援認定は受けておりますけれども介護サービスを利用していない状態の人に対して、地域包括支援センター職員が介護予防ケアマネジメントを行っております。個人のニーズに応じて、介護予防事業の利用や地域の通いの場につながるようコーディネートしており、今後も推進してまいります。      

 当区は、2017年度から介護予防・日常生活支援総合事業を開始しています。要支援1、2の方々へのホームヘルプサービス、通所型サービスはともに、緩和型サービスに比べ従前相当サービスの利用者が圧倒的に多い状況です。地域の多様な担い手を想定した住民主体サービスにおいては、事業を担っているのはシルバー人材センターと高齢者会館、住民団体4団体で、メニューはあるものの、多様な主体が実施しているとは言えない現状です。また、社会参加の促進に必要不可欠な移動支援についてはほとんどありません。

質問 介護予防・日常生活支援総合事業のスタートから7年が経過しました。当初描いた姿に比べて、現状はどのような姿ですか。これまでの総合事業の評価を行い、これからの事業の在り方を利用者、関係機関、事業者とともに考えてみてはいかがでしょうか、伺います。

答弁 介護予防・日常生活支援事業は多くの利用者がつながっておりますけれども、虚弱の人が通える場が少ないと認識しております。要介護への移行を防ぎ、自立した生活への有効な支援となるよう、利用者、ケアマネジャー、事業者の声を聞きながら事業の在り方を検討してまいります。

 今や介護サービスを利用する理由の1位は認知症です。今年1月には認知症基本法が施行、3月には中野区認知症施策推進計画が策定され、認知症施策の推進が図られています。

質問 中野区が事業主体である地域支援事業を、認知症対応を強化したものに更新していく必要があると考えます。区の見解を伺います。

答弁 地域支援事業は、認知症予防や軽度認知障害の人に対応するプログラムを増やし、展開してきたところでございまして、今後も、利用者のニーズをつかみながら事業改善に取り組んでまいります。   

 介護保険の本旨は認定者への介護給付のはずです。本来、必要なサービスを保険で給付するための介護保険に介護予防や総合事業が組み込まれたことには、私は疑問を感じています。制度がスタートしてからもうすぐ四半世紀になる介護保険制度を利用者の尊厳と選択を支える制度にしていけるよう、必要であれば自治体から国に意見を上げていただくことを要望します。

ケアラーズカフェについて

 先日、認知症のご家族の介護をされている方と一緒にオレンジカフェに参加させていただきました。参加者の中には初参加のケアラーもおられ、雑談などをしながら少し打ち解けてきた頃に、ご自分の状況について堰を切ったように話されました。話しても話しても足りない感じで、その方の苦しさが伝わってきました。
ケアラーの参加者同士で対応への工夫などを話されていましたが、帰り際に、介護をしている方と話をしたくて来たんですとおっしゃっていたのが強く心に残っています。私がご一緒したケアラーの方も、経験や悩みを共有できるこうした場はよかったとおっしゃっていました。同じ立場にいるケアラー同士が安心して話ができる場は、今困っているケアラーに対してとても有効なのだと感じました。

質問 オレンジカフェは、介護を受けている御家族と一緒に参加できます。このような場ももちろん必要ですが、御本人を目の前に話せないこともあります。ケアラー支援の一つのメニューとして、身近な地域にケアラーに特化したケアラーズカフェが必要だと考えます。区としての方向性を伺います。

答弁 身近な地域でケアラー同士が経験や悩みを共有できる場は、ケアラー支援において必要であると考えております。現在活動しているケアラーズカフェの状況を集約し、必要とする人への情報提供、カフェ間のネットワークづくり、立ち上げ支援を検討してまいります。